必読本 第1001冊目
楽園
後藤 静香 著
¥ 1,050
善本社
単行本(ソフトカバー): 157ページ
1986年2月1日 新版
●「人生は楽園なり」これが私の大前提である。
私の過去にも幾多の波乱曲折があった。
幼い日に父を失い、中学時代には家がまる焼けになった。
もともと虚弱体質で、わずかの無理がすぐさわる。
そのほか、とても記しきれない心の悩みを、いろいろと経験した。
私のいくところ、止まるところが、楽園であるという信念に変わりない。
●「読書のすすめ」の清水克衛さんの著書で紹介されたことによって、
かなり古い本にも関わらず(初版はなんと昭和34年)、再注目されている本。
社会教育家や慈善事業家として、戦前戦後の我が国の教育界に
多大な貢献を果たした後藤静香の中でも、
傑作の評価高い名エッセイ集。
●本書には、軽妙なタッチの随筆が32個ほど収められている。
人生をいかに生きるべきか、苦難の時にはどのような態度でいればよいのかなど、
著者自身の波乱万丈の人生経験から導き出した考え、思想は、
非常に重みがあります。
リンカーンやビクトル・ユーゴーなど、
偉人にまつわる感動話が沢山紹介されているのも特長の一つです。
●ちょっと古い本なので、時代錯誤的な内容も結構あるかなと心配したのですが、
森信三氏の本と同じく、全く古臭さを感じさせません。
あの、ミスター長嶋茂雄氏や、成功哲学研究家の西田文郎氏が
愛読書にしているのも納得の内容です。
「読書のすすめ」で、これも大推薦されている「少女パレアナ」に
関するお話も収録されているのも面白いところです。
サラリと読める薄い本であることも美点ですね。
●難点は、やはり、無名の小出版社から出されている本ゆえ、
なかなか入手が難しいということでしょう。
アマゾンなどでは現在問題なく入手できるようですが、
「読書のすすめ」では一時、入荷に時間がかかったということなので、
興味をお持ちの方は早めに入手しておいた方がよろしいかと思います。
【マストポイント】
@「わたしも、数えきれないほど逆境を通ったものの一人である。
しかし、どんなに辛い境遇であったにせよ、
それがむだであったとは思わない。
私から逆境を取り去ったら、どんな人間になったか知れないと思う。
私に生きがいを与えたものは逆境である。
順境は、私を怠慢にし、私によからぬことを教え、私をごうまんにし、
私をうすっぺらな人間にするだけで、何一つ役に立ったことはないような気がする」
A「山登りは頂上だけが目的ではない
目的の一部である
ふもとから頂上へ
頂上からふもとへ
道程の一切が目的である
楽しみながら上りまた下る
決して急がない
人生行路も同様である
花は、白馬ならぬこの世の旅にも咲き
新芽の精は脚下の一歩一歩に光る」
B「愛が小さいと、ひとのためにしたことを、
いちいち心にとめている。
そうして、何かの好意をうけたとき「いつかこれこれのことをしておいた」と、
差引勘定をする。
金貸しが利息を付けて返金を求めると同様の心境である。
何か人のためにつくせたら、それは自分の義務を果たしたものとして満足し、
その時切りの帳消しにしたい。
しかし、人の恩愛に接したときは、差引勘定なしに、感謝を以てうけたいものである」
(以上本文より。一部改変)
【著者略歴】
後藤 静香
明治17年8月19日、大分県大野町に生まれる。明治39年東京高等師範学校官費数学専修科を卒業し、長崎県立長崎高等女学校及び香川県女子師範学校に歴任すること13年。大正7年上京、全日本を対象として社会教育に専念し、月刊誌の発行、著作、講演等により、終始一貫、初志の貫徹に努むること50年に及ぶ。昭和44年5月15日没。昭和53年、多数の著作が「後藤静香選集」全10巻にまとめられた。著書にはほかに、「楽園」「生きる悦び」「道のしるべ」(以上善本社刊)がある。