必読本 第1006冊目
映画長話 (真夜中BOOKS)
リトル・モア
¥1,995
単行本(ハードカバー): 346ページ
2011年8月15日 新版
●きわめて真剣、かつ軽やかで愉快な言葉のかたわらに、
映画の現在に迫る根源的な問いが投げかけられる。
●この前、蓮実重彦先生の本(必読本 第1002冊目参照)を久しぶりに手にし、
非常に刺激的だったので、続けざまに図書館から借りて読んだ本。
かつて、蓮実先生は、立教大学にて「映画論」の講義を受け持っていて、
それを聴いた学生の中から、多くの著名な監督を輩出したことは、
映画ファンならずとも有名なことでしょう。
本書は、雑誌『真夜中』にて、黒沢清、青山真治という蓮実先生の薫陶を受けた
教え子監督二人との豪華鼎談全10話分を収めたものです
(最終話だけ、同じく教え子の万田邦敏がゲストの4人対談)。
●扱われている内容は、黒沢、青山両氏の映画製作上の悩みを
蓮実先生に打ち明けたり、
小津、イーストウッド、スピルバーグ、ゴダール、北野などの
名作や最新作のどこがいいのか、どこが悪いのかを
縦横無尽に語り合ったりと、映画ファンならば非常に楽しく読める内容です。
誰もが驚嘆した『アバター』などの3D映画は、
今から60年前の1950年代のハリウッド時代からあったもので、
取り立てて新奇なものではないと指摘した蓮実先生の言葉が特に興味深かったです。
●対話形式の本なので、もちろん口語体。
立て板に水のごとくスイスイ読めるのもいいですね。
ただし、350ページの分厚さなので、読み応えは十分にあります。
かつて、「学生と教授」という関係にあった3氏ですが、
蓮実先生は、教え子二人を変に年下扱いせず、
きちんとした映画作家として、対等な立場で話されているのが印象的です。
先生の礼節ぶりが想像されます
(ただし、例によって、駄目な作品に対しては非常に辛辣)。
●しかし、改めて驚かされるのが、蓮実先生の映画鑑賞数の膨大さである。
相当に多忙な御身分であるかと推察するが、
ハリウッドのメジャーな作品から、初めてそのタイトルを聞くような
欧米の小品まで、実に幅広くご覧になっておられる。
巻末には索引まで付いているので、
興味ある作品、特に、3氏が推薦している作品などは、
レンタルDVDなどで追って鑑賞したいものである。
【マストポイント】
@「書いたことは誰でもみんな忘れると思う。
でも、撮ったことは忘れられないはずでしょう。
言葉なんて半ば忘れるためにあるわけじゃないですか。
だけど映画は、見ることも撮ることも、人的環境や風土的な環境といった、
全体的な環境によって記憶してしまうところがある。
あのとき曇ってたとか、忘れないですよね。
だから怖いんです、映画は」
A「映画の問題って、結局は『撮るが勝ち』に尽きていると思います。
ゴダールが反ユダヤ主義者と批判されるのも、
彼が一貫して『撮るが勝ち』の人だったからでしょう。
お二人とも、どうか堂々と『撮るが勝ち』を実践していただきたい」
B「結局、『わかる人にはわかる』という一点に尽きているように思います。
それが本当にわかったかどうかはどうでもいい。
誤解でもいい、誰かが、ほとんどなんの理由もなく、
またわかろうとさえ思っていなかったのに、
いきなり『わかった』と思ってしまう瞬間をあおりたてる映像と音響が
この世界に存在していることが重要なのです。
わかろうとしていたわけでもないのに、
不意に何かがわかってしまうという瞬間は、
生きている現在をゆるがせて優れて現実的な体験そのものなのです。
それが映画にはある」
(以上本文より。一部改変。すべて蓮実の言葉)
【著者略歴】
蓮實 重彦
1936年東京生まれ。60年東京大学仏文科卒業。65年パリ大学大学院より博士号取得。70年より立教大学にて「映画表現論」開講。93年から95年まで東京大学教養学部学部長。97年より01年まで東京大学総長。
黒沢 清
1955年兵庫県神戸市生まれ。75年立教大学入学。長谷川和彦、相米慎二らの助監督を経てディレクターズ・カンパニーに参加し、83年『神田川淫乱戦争』で商業映画デビュー。
青山 真治
1964年福岡県北九州市生まれ。84年立教大学入学。ダニエル・シュミット、黒沢清らの助監督を経て、96年『Helpless』で商業映画デビュー。