
無人島に生きる十六人
須川邦彦 (著)
新潮社
¥420
文庫本:258ページ
2003年7月1日 初版
●大嵐で船が難破し、僕らは無人島に流れついた!
明治31年、帆船・龍睡丸は太平洋上で座礁し、脱出した16人を乗せたボートは、
珊瑚礁のちっちゃな島に漂着した。
飲み水や火の確保、見張り櫓や海亀牧場作り、海鳥やあざらしとの交流など、
助け合い、日々工夫する日本男児たちは、再び祖国の土を踏むことができるのだろうか?
名作『十五少年漂流記』に勝る、感動の冒険実話。
●先日紹介した、斎藤一人さんの近刊(必読本 第1017冊目 参照)
巻末で推薦されていて、興味をそそられ読んだ本。
利害関係のない第3者の本を、最近ほとんど紹介されない一人さんだっただけに、
相当の期待感を持って手にしたが、それに違わぬ痛快な本であった。
●内容は、明治時代に太平洋上で難破してしまい、
無人島に流れ着いた16人の日本人船員たちの漂流記である。
著者自身の体験記ではなく、その師匠にあたる人物から聞いた話を元に創作されている。
●まず本書で感銘を受けるのは、
いつ救助が来るかわからない絶望的な無人島生活において、
自暴自棄になることもなく、16人が一致団結して、
自らの生活を築き上げていく姿である(一部、日本に帰化した英語圏の人間もいる)。
この手の話においては、お約束のように、必ず集団の輪を乱す者が出てくるものだが、
リーダーである船長の命令や指示を忠実に守り、悲観することなく、
自分に出来ることを個々人が精一杯行っている姿に心を打たれる。
勉強の時間を作って知的水準を保ったり、歓談の時間で適度にガス抜きをしたりなど、
時間の活用法、集団統率の観点から参考になる話も多い。
●同様に感心させられたのは、ないない尽くしの環境の中で、
知恵を絞りだして、与えられたものを有効活用していこうというその姿勢である。
食糧確保の方法、野生生物との共生の仕方、
飲み水や塩の作成法、住居の建設法、人員配置の妙など、
よくもこんなアイディアを思い付くものだと驚嘆させられるような方法で、
自分たちの生活を次々に好転させていく。
入手した木材、銅版、動物の部位を、奇想天外な方法で転用させるなど、
サバイバル術的な話が満載なので、冒険モノが好きな人は、楽しく読めること必定だ。
●この手の話においては、不幸にも犠牲者が出たり、
心身に異常を来す者が出てきたりして、
悲惨な展開に陥ったりすることがままあるものだが、
本書は、そのようなネガティブな方向に行くことがない。
どんなラストになるのかドキドキもので最終盤に進んでいくが、
爽やかな終わり方をしているのも高ポイント。
青少年のみならず、大人が読んでも、十分満足できる仕上がりである。
●極限状況下であっても、希望を失わず一致団結して協力する人間の素晴らしさ。
たとえ、無人島に流れ着き、原始人のような境遇に落ちぶれても、
日本男児としての礼節や気概を捨てない明治男の心意気にも感動を覚えます。
さすが、一人さんが推薦するだけのことはある、
健康的で、勇気が湧いてくる本です。
元は昭和23年に講談社から発売された古い本のようですが、
文章も現代的で読みやすく、巻頭の地図など、可愛いイラストも多くて、
今読んでも全く問題はありません。
【マストポイント】
@「島生活は、きょうからはじまるのだ。
はじめがいちばんたいせつだから、しっかり約束しておきたい。
一つ、島で手に入るもので、くらして行く。
二つ、できない相談はいわないこと。
三つ、規律正しい生活をすること。
四つ、愉快な生活を心がけること。
さしあたって、この四つをかたく守ろう」
A「一人一人の、力はよわい。ちえもたりない。
しかし、一人一人のまごころと真剣な努力とを、十六集めた一かたまりは、ほんとに強い、
はかり知れない底力のあるものだった。
それでわれらは、この島で、りっぱに、ほがらかに、
ただの一日もいやな思いをしないで、おたがいの生活が、
少しでもよくなるように、心がけてくらすことができた」
B「ポカンと手をあけて、ぶらぶら遊んでいるのが、いちばんいけないのだ。
それで、われらの毎日の作業は、だれでも順番に、まわりもちにきめた。
だれもかれも、熱心にじぶんの仕事にはげんだ」
(以上本文より。一部改変)
【著者紹介】
須川 邦彦
1880(明治13)年、東京生れ。1905年、商船学校航海科卒後、大阪商船に勤務。また、日露戦争に従軍し、水雷敷設隊として奮戦。第一次大戦では敵艦の出没する洋上に敢然、船長として乗り出し、日本海員魂を発揮した。その後、商船学校教授を経て、東京商船学校校長、海洋文化協会常務理事を歴任。’49(昭和24)年死去。
ラベル:斎藤一人