
奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家木村秋則の記録
石川拓治(著)NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」制作班(監修)
¥1,365(税込み)
幻冬舎
ハードカバー:207ページ
2008年7月25日 初版
●絶対に不可能といわれてきたリンゴの無農薬栽培を成し遂げ、
ニュートンよりライト兄弟より偉大な発見をした男の感動ノンフィクション。
長年の極貧生活と孤立を乗り越えて辿り着いた答えとは?
●2006年、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に登場し大きな話題になった
青森県の無農薬無肥料でのリンゴ栽培農家、
木村秋則さんの現在までの軌跡を辿った本。
発売から半年余りになるが、アマゾンでは大変な売れ行きを示している。
●木村さんは、元々、簿記一級を取得するほど数字に強く、
三度の飯より機械いじりが好きと、相当に頭は切れる人だったらしいのだが、
集団就職後、色々あって地元にUターンし、農業を始める。
外国の大型トラクターを独自に輸入し、大規模農業を開始するほどの
アイディアマンだったのが、
ひょんなことから、無農薬無肥料でリンゴを栽培できないものかという
誰も考え付かない壮大な実験を開始する。
●成功するかどうかもわからない無謀な試みを開始してからの
極貧、孤立無援の生活は、本当にここ最近の話なのか?
作り話ではないのか?と思うほどに悲惨さを極める。
隣近所からの村八分、家計の破綻、ホームレス同然の出稼ぎ生活、
農業終了後にバイトしていた水商売で、ヤクザに暴行を受けた話など、
絵に描いたようなどん底生活のオンパレード。
将来ドラマ化が必至の、激動の人生を送る
(見逃せないのは、こんな地獄の生活を挫折せずに送り続けられたのは、
温厚、冗談好き、社交的な性格があったからである。
隣近所などから、田舎生活特有の過酷なバッシングを受けつつも、
援助してくれた人も数多かった)。
●色々と試行錯誤するも八方ふさがりの状態で、
心身ともに疲弊し、遂に自殺を決意。
ロープを持参し、一人、闇夜の山の中に消えていくのだが、
そこで、まさに神の恩寵のように、
リンゴ栽培に役立つ奇跡のヒントに巡り合う。
そこで得た気づきを元に今までのやり方を改良し、
遂にリンゴの花を咲かせ、果実を実らせることを成功するまでの流れは、
映画を見ているかのような感動を持続しつつ、一気に進行する。
目に見える、葉に付着する害虫だけを追い払っていた時には
何も巧くいかず、目に見えない土の中の根の部分に目を向け始めた途端に
すべてが好転したという話は、我々にも非常にヒントになる話であろう。
●やはり、現在売れまくっているのが納得の傑作である。
「諦めなければ夢は叶う」、「常識、先入観に縛られず、柔軟に考える」など、
数多くの教訓に満ちた本です。
木村さんが経験された辛酸に比べれば、
自分の悩みや苦しみなど大したことがないと間違いなく思い知らされます
(しかし、カバー写真でもわかるとおり、歯が全くなくなって
入れ歯も入れていないのに、そんなことを一顧だにせず、
自分の夢実現だけのために全力集中することができるとは、
どういう精神構造なのだろうか)。
これほどまでに珍重されている商品にもかかわらず、
高値にせず、適正価格で販売しているというその心意気にも感銘を受ける。
宇宙人と出会い、UFOに連れ去られたという奇想天外な話も出てくるが、
木村さんのことだからおそらく実話なのだろう
(余談だが、何か使命的な仕事を与えられる人というものは、
UFOを見たり、宇宙人に連れ去られたり、神様などの声が
よく聞こえたりするようである)。
●あえて批判すれば、写真がたった一枚ということか。
くだんの番組を見てない人には、リンゴ畑の実際の姿や、
木村さんのご家族の写真、木村さんのリンゴを使って大人気となっている
レストランの写真なども是非見たかった。
文章も、印象的なエピソードをすべて収めようとした
ノンフィクションライターらしい生真面目さで、
やや長たらしい印象を受ける。
もうちょっとスッキリ書けたのではないかという感じもあるが、
まあ内容の凄さを考えれば、大して重要な問題ではない。
読後、近所のスーパーで購入したリンゴ(もちろん農薬が
たっぷりと使われているだろう)があったので、
皮をむいて食べたのだが、甘さも美味しさも全く感じなかった。
精魂込めて作った木村さんのリンゴはどんな味がするのだろうか。
近い将来食べてみたいものである。
【マストポイント】
@「(自殺を考えたという人に)とにかく思い直して良かったねえと言ったかな。
それから、バカになればいいんだよと言いました。
バカになるって、やってみればわかると思うけど、
そんなに簡単なことではないんだよ。
だけどさ、死ぬくらいなら、その前に一回はバカになってみたらいい。
同じことを考えた先輩として、ひとつだけわかったことがある。
ひとつのものに狂えば、いつか必ず答えに巡り合うことができるんだよ、とな」
A「コンピュータというのはさ、私に言わせればただの玩具なんだよ。
だけど、この機械によって、やがて人間が使われるようになるんだろうなと思った。
人が作った機械に人が使われるようになるんだとな。
今の世の中になれば、その通りになってるよ。
コンピュータと同じでさ、他から与えられたものしか利用出来ない人が
すごく増えてしまった。自分の頭で考えようとしないの。
インターネットだってそうだよ。
みんな答えはインターネットの中にあると思い込んでしまうのな」
B「百姓は百の仕事という意味なんだよ。
百の仕事に通じていなければ、百姓は務まらないのさ」
(以上本文より。一部改変)
【著者略歴】
石川 拓治
1961年茨城県水戸市生まれ。ノンフィクションライター。