必読本 第953冊目
今、63歳
北野 武(著)
¥ 1,680
ロッキングオン
単行本: 301ページ
2010年7月7日 初版
●「俺、やっとオヤジからジジイに脱皮したと思ってるわけ」
映画監督として、タレントとして、また黄金期を迎えた今だから語れること。
SIGHT大好評連載中の自叙伝インタヴュー・シリーズ、9刊目。
傑作『アウトレイジ』に到達するまで。2年間の軌跡を語りつくす。
●ロッキング・オンから発売され続けている、
「北野武」自伝本シリーズの最新刊。
昨年6月中旬に出た第9巻目である。
●「漫才」、「雑誌」、「男の更年期」、「ファッション」、「スポーツ」など、
たけしさんの最近身のまわりで起こった出来事を中心に、
ツービートさながらの機関銃のようなしゃべり口で、
一気に思いの丈を述べて行きます。
例によって、全12話どれを読んでも痛快で、
一旦読み始めたら止まらない面白さですが、
特に興味深かったのは、現在担当しているすべてのレギュラー番組に対するスタンス、
番組の裏側を語った章。
くだらないトークや被りモノなど、アドリブでやっているだけなのでは、
と思ってしまうことが多い殿のパフォーマンスですが、
裏側では、意外に緻密な計算を働かせて行動していたり、
まわりとの距離を絶妙に測りながら己の立ち位置を定めていたりなど、
この道で何十年もトップを独走しているだけの才覚はあるな、と
改めて思い知らされます。
ただ惰性で毎日大量のタバコを吸っていたが、テレ朝の自ら出演する健康番組などで
確かな知識を得るなどして、すっぱりと禁煙してしまった話、
酒は別に好きではなく、味が美味しいと思ったことはほとんどない、
ただ酔っている自分が好きなだけだ、今は週2回しか飲まないと述べた嗜好品の話も興味深かったです。
●あらゆる意味での「賞」と名がつくものには、
ことごとくフラれてきたと嘆いた第1章は、
若手漫才師時代や海外映画祭での秘話が満載。
NHK漫才コンクールでの思い出話、
特に、超ベテラン漫才コンビを実名でケチョンケチョンにけなしたり、
全く獲れると思わなかったヴェネチアで映画賞を受賞した模様を
リアルに振り返ったりなど、抱腹絶倒です。
特に爆笑できる箇所です。
【マストポイント】
@「俺は、とんねるずから何から、何十年後輩でも、若手のお笑いに対して、
悪口1回も言ったことないからね。
『新しい』とか『あいつはおもしろい』って、むしろほめるもん。
よくいるじゃない、『今の若手はつまんない』とか『お笑いはもうダメだ』とか言う人。
俺はそういうこと、1回も言ったことないね」
A「一時期、自分の感覚より『人がどう見るのか?』ってことを考えてたときもあるけど、
まあ、もうね、あれだね、これだけ映画撮ったから、もうその観点を気にしなくなってきてるかもね。
なんつうんだろ、テレビもみんなそうだけど、バーっとテレビに出だして、
最初は勝手に自分で番組作っていくんだけど、
ある時期からちょっと、お客のこととか視聴率とかを、考えて作るようになるじゃない。
でもあるとき、『もう、テレビやりたくねえ』と思った瞬間に、
客に媚を売るのはやめようと思うわけ。
そうすると逆に、また、俺の時代がきちゃったりなんかするわけ」
B「俺はね・・・・・ちょっと邪道なんだか、クセがあってね。
お客というものは、まあ認めるんだけども、
それ以前に、お客の評価がどうでもいいってところがあるのね。
意識するのは同業者なんだよね。
同業者に見せつけるとか、他の漫才師が嫉妬するようなことをやりたいっていうのが、
漫才の時代からずっとそうだね。
だから、演芸場で漫才やってて、客にウケるのはあたりまえだと思ってたし。
だから、その客もこっちが選ぶし、ジジイとかババアはどうでもいいし。
あの、かなり若い奴で、お笑いやなんかに敏感な奴、反応がいい奴、
マニアックな奴は、客として『こいつらは笑わせなきゃ』と思うよね。
そのクセは、いまだに続いている。
テレビを観てる客よりも、いかに他の芸人に影響を与えるか、っていうか」
(以上本文より。一部改変)
【著者紹介】
北野 武
1947年1月18日、東京生まれ。映画監督、俳優、コメディアン。浅草フランス座での修業時代を経て、漫才コンビ、ツービートを結成。漫才ブームを牽引し、テレビ界での地歩を確立した。1989年に映画界に進出、『その男、凶暴につき』で鮮烈な監督デビューを飾る。その後、次々と刺激的な作品を発表し、世界各国で高い評価を受ける。『ソナチネ』(1993)はイギリス国営放送BBCの「21世紀に残したい映画100本」に選出。『HANA‐BI』(1998)がベネチア国際映画祭金獅子賞、『座頭市』(2003)が同映画祭銀獅子賞を受賞するなど、数々の栄誉に輝く。