2011年06月18日

必読本 第987冊目 村上春樹 雑文集

必読本 第987冊目

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村上春樹 雑文集

村上春樹(著)

¥ 1,470

新潮社

単行本: 435ページ

2011年1月31日 初版


●インタビュー、受賞の挨拶、海外版への序文、

音楽論、書評、人物論、結婚式の祝電――。

初収録エッセイから未発表超短編小説まで満載の、著者初の「雑文集」!

●日本を代表する超人気作家の村上春樹さんには、

最近、本職の小説以外の、各所で発した文章やメッセージが

一冊にまとめられた余業的な本が立て続けに出版されている。

以前ご紹介したインタビュー集(必読本 第954冊目参照)もそうだし、本書もそうである。

各種媒体で述べた序文、解説文、軽い筆致のエッセイや、

授賞式でのコメント、日本語訳されていない海外で発表した文章、

幻の未発表手記などが一冊にまとめられた本。

●「雑文集」と、自嘲的というか、ぶっきらぼうなタイトルが

つけられているが、希代の人気作家で、美文家としても

定評のある村上さんだけのことはあり、

手を抜いたような低級な内容の文章はなく、

実に淀みなく読み進めることができる流麗な名文ばかり。

扱われているトピックも興味深いものが少なくない。

たっぷり400ページを超える分量だが、 時間を忘れて没頭できる。

●構成的には、翻訳、音楽、インタビューや挨拶、

序文や解説文、知り合いなどの人物批評、

ボツになったおふざけ気味の小品

(村上氏の作品に批判的なことで有名な、

文芸評論家の柄谷行人をパロった短編は、特に爆笑必至)など、

内容ごとに章が分けられている。

LPレコード、音楽機材などに対する深い愛情、

オウム真理教関係の作品を出した時の内幕を述べた話、

好きな外国人作家への思いを述べた話などが個人的に特に面白く読めました。

●大ベストセラーの「ノルウェイの森」は、ビートルズの曲名から

取られたことは余りにも有名なことですが、

果たして「ノルウェイの森」という訳名は正しいのか?とか、

デビューの時、好きな作家の登場人物になぞらえて、

「村上リュウ」というペンネームにしようと思ったが、

既に村上龍氏がいたので、泣く泣く本名で作家活動をすることになったとか、

ヤクルト・スワローズの初日本一の際に出会った外国人選手との心温まる交流とか、

ジャズ・バーを経営した時のちょっとホロっとくる、黒人と日本人女性と、

ビリー・ホリディの曲にまつわる思い出話とか、

バッハの曲をピアノで弾いて体のバランスを矯正するとか、

初めて聞くような珍エピソードも満載。

「村上春樹」という作家、人物を理解する上で、

非常に多種多様な文章が収められていて、読み応えがあります。

●カバー装画や本文イラストを共同で担当された、古くからの仕事仲間にして盟友の、

和田誠、安西水丸両氏の対談風巻末解説も、

実際の交流がある両氏だけしか知りえない

村上さんのプライベートの姿が活写されていて、非常に楽しく読めます

(実は村上さんは絵画にも才能があり、抽象画も一見の価値があるとか。

3氏の共通の仕事場である東京青山周辺をブラブラしていると、

バッタリ村上さんと会えるのではと、ひそかに期待してしまう)。

●村上さんは、公の場に出ないちょっと変人なことでも有名ですが、

しかし本書を通読すれば、実は、ひたすら自分の本分である作家業だけに、

忠実に誠実に取り組んでいるからであるということがわかったり、

金銭や名声ではなく、読者を一番大切に思い、

その人々の期待に応えられるような

良質な作品を生み続けることだけに心を砕いているということがわかり、

今までの隠遁者的なマイナスイメージが覆ることは確実です。

ファンもアンチの方も楽しく読める本です。

 【マストポイント】

@「ひとつだけメッセージを言わせて下さい。

個人的なメッセージです。これは私が小説を書くときに、

常に頭の中に留めていることです。

紙に書いて貼ってあるわけではありません。

しかし頭の壁にそれは刻み込まれています。こういうことです。

もしここの硬い大きな壁があり、そこにぶつかって割れる卵があったとしたら、

私は常に卵の側に立ちます。

そう、どれほど壁が正しく、卵が間違っていたとしても、

それでもなお私は卵の側に立ちます。

正しい正しくないは、ほかの誰かが決定することです。

あるいは時間や歴史が決定することです。

もし小説家がいかなる理由であれ、壁の側に立って作品を書いたとしたら、

いったいその作家にどれほどの値打ちがあるでしょう?」

A「ミステリ小説であれば、最後に犯人の解明が必要になります。

昔話ではおしまいに「めでたしめでたし」がなくてはなりません。

小話であれば最後におちが必要になります。

宝くじでは当選番号の発表が必要です。

競馬では順位が大きな意味を持ちます。

しかし僕が書く小説は、ありがたいことに、

そのような最終的な明白な結論を必要としていません。

必要がないものを無理に書く必要はない、ということです。

僕は明白な結末というのが好きではないのです。

日常生活のほとんどの局面において、そんなものは存在しないわけですから」

B「かおりさん、ご結婚おめでとうございます。

僕もいちどしか結婚したことがないので、くわしいことはよくわかりませんが、

結婚というのは、いいときはとてもいいものです。

あまりよくないときには、僕はいつもなにかべつのことを考えるようにしています。

でもいいときには、とてもいいものです。

いいときがたくさんあることをお祈りしています。お幸せに」

(安西水丸さんの娘の結婚式での祝電)

(以上本文より。一部改変)


【著者紹介】

村上春樹

1949年1月12日、京都府京都市生まれの兵庫県芦屋市育ち。住職の息子で国語教師でもある父と、大阪の商人の娘である母の間に生まれる。兵庫県立神戸高等学校卒業。早稲田一文に入学。その後演劇映像専修へ進む。大学在学中に陽子夫人と結婚結婚後、国分寺市に転居し、大学に在学しながらジャズ喫茶を開業する。大学を7年かけて卒業後,閉店後の店で小説を書き、1979年『風の唄を聴け』で群像新人文学賞を受賞しデビュー。1981年には作家専業で生きていく決意を固め、ジャズ喫茶を廃業した。全共闘世代、団塊の世代を代表する作家であるが、政治活動にかかわることを避け、全共闘運動からは遠く距離を置いている様子が、作品の端々からうかがわれる。1987年『ノルウェイの森』が、空前の大ベストセラーとなり、一般的にも認知される。その後、出せば必ず売れる作家の1人に数えられるようになった。作品は韓国、米国、台湾などでも絶大な人気があり、1980年代以降の日本文学、現代文学を代表する最も評価の高い文学者の1人である。



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