2011年10月04日

必読本 第1002冊目 随想

必読本 第1002冊目

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随想

蓮實 重彦

¥ 2,310

新潮社 

単行本(ソフトカバー): 254ページ

2010年8月30日 新版

●いまなおノーベル文学賞の前評判や、オリンピックの招致に振り回される人々がいる。

オバマは血なまぐさい演説を繰り広げ、サルコジは古典文学不要論を公言して憚らない。

日本のお家芸のように言われた島国根性は世界に蔓延し、はしたなさを露呈しあう。

しかしこのような時代にも心を湧き立たせてくれる、

つつしみ深い人物や映画、小説の世界は確実に存在する。

●元東大総長、映画評論家、批評家としても名高い

蓮実重彦氏の昨年8月に発売された近刊。

文芸誌に連載されていたエッセイを一冊にまとめたもの。

個人的なことで言いますと、軽い文体の本を続けざまに読んだ後に、

脳の軟弱化、老化を防ぐという意味で、

何ヶ月かぶりに必ず蓮見先生の本を読みたくなる。

●本書は、批評家としてのデビュー作として絶賛された

『反=日本語論』(筑摩書店)的な趣が濃厚な本である。

つまり、蓮実先生の身辺で起こった出来事をネタに、

難解、時に意味不明な独特の蓮実節はやや抑え気味、

しかし、偽悪的かつインテリ臭はやはりプンプンと漂わせ、

映画、小説、政治、文芸団体などを一刀両断に評論しまくるという

内容のエッセイです。

全15話分収められております。

●例によって、柄谷行人氏同様、

希代の人気作家、村上春樹氏には、 露骨な嫌悪感を示し、

徹底的にこきおろしている。

ノーベル賞予想の喧噪、利権が垣間見れる「国民読書年」などの

国策に対する冷めた批判、

オバマ大統領の就任演説に感じた違和感、

小説、文芸作品にまつわるやや御堅い評論、

もちろん、専門分野の映画にまつわるお話も満載です

(ハリウッド作品が、本国と同時公開されず、

異様に後になって上映される日本の異常さを批判したお話や、

老齢の映画作家を追悼するお話が特に面白かった)。

事故で志半ばで急逝した親しき同窓を追悼する話、

フランス文学者の大先輩中村光夫との思い出を語った話には、

蓮実先生らしからぬセンチメンタルなものが如実に込められており、

意外に思うと共に、ホロリとさせられます。

●冒頭記したように、

平易な文章ばかり読んでおりますと、

脳がダレてきてしまうといいますか、

語彙力、文章読解力が落ちてきてしまうのは正直否めません。

本書は、自己啓発本という観点ではちょっと当てはまらないかもしれませんが、

たまには、こういう複雑極まりない文章と格闘してみるのも、

知性が広がり、色々な発見もありますので、お薦めです。

秋の夜長、テレビやPCのスイッチを切って耽溺する本として、

必読の一冊かと思います。

 

 【マストポイント】

@「だが、それにしても、このグローバライズされた地球にあって、

人はなお、ノーベル文学賞の国籍がたまたま自分と同じであることに悦びを

見出さずにはいられないほどはしたない存在なのだろうか。

その受賞によって、「村上(春樹)文学の世界性」が証明されるなどと、

本気で思っている大学の教師がいるのだろうか。やれやれ」 

A「戦争の始末におえない怖ろしさは、

軍人が軍人としての義務をはたしえない状況に軍人を陥れるメカニズムが

不可避的に作動してしまうことにある。

かりに自国民の防衛が軍人の義務だとしても、

沖縄戦を想起するまでもなく、その義務をはたしえない軍人を少なからず

生産してしまうのが戦争の本質的なメカニズムだからである。

そのメカニズムを作動させないためにわれわれが存在しているはずだが、

われわれはその義務にどこまで自覚的たりうるだろうか」

B「批評家は、社会の教育的な刺激そのものをあれこれ批判する資格など持ってはいない。

みずからその刺激を受けとめながら、同時に、その刺激の一部たらざるをえないからだ。

批評に許された数少ない振る舞いは、その刺激が豊かな多様性を見失い始めたとき、

その瞬間を黙って指さすことぐらいだろう。

社会の教育的な刺激が豊かな多様性を見失うことは、

その社会の遠からぬ死を意味している。

遠からぬといっても、まだ数世紀は先のことであろうが」 

(以上本文より。一部改変)

 

【著者略歴】

蓮實 重彦
1936(昭和11)年東京生れ。東京大学文学部仏文学科卒業。教養学部教授を経て93年から95年まで教養学部長。95年から97年まで副学長を歴任。97年から2001年まで第26代総長。主な著書に、『反=日本語論』(1977、読売文学賞受賞)『凡庸な芸術家の肖像 マクシム・デュ・カン論』(1989、芸術選奨文部大臣賞受賞)『監督 小津安二郎』(1983、仏訳、映画書翻訳最高賞)など多数。1999年、芸術文化コマンドゥール勲章受章。



ラベル:蓮実重彦
posted by miura at 12:18| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・詩集・エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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