
社長が戦わなければ、会社は変わらない
金川千尋(著)
東洋経済新報社
¥1,470
単行本: 214ページ
2002年12月19日 新版
●八方ふさがりでも「活路」あり!
深刻な不況が続く業界にあって、7年連続で最高益を更新。
世界トップシェアのメーカーを米国で経営するなど、国際的に評価の高い「金川流経営」のすべて。
●昨年末にご紹介した(必読本第1011冊目参照)、信越化学工業社長の金川千尋さんの10年前に発売された本。
最近、タイトルも変え、内容も加筆されて改訂されたが、
それの元となった本である。
ちなみに、その本は、以前もチラリと書いたことがあるが、
昨年発売されたビジネス書の中では筆頭の名著という誉れである。
●「株式会社の経営者のボスは株主だけ」と、ドライな持論をいきなりぶったり、
GEのジャック・ウェルチを崇拝していたり、アメリカで事業経営をされていることもあり、
欧米流の、血も涙もない冷酷な経営者なのかと、初めての方は心配してしまうだろうが、
贅沢を嫌い、質素な生活を好む、
権謀術数を使い、人を陥れるような卑怯な手法を嫌悪し、人の恩義、人間関係を重視する、
山本五十六など、軍人などの生き方にヒントを見出すなど、
和洋折衷というか、西洋と東洋のいい面だけを効果的に吸収する、
バランスが非常に取れた経営者といった印象を受ける。
●増補改訂されたぐらいに定評があっただけのことはあり、
他にも、「金川流会社経営の極意」が、非常に単純明快に語られている。
少数精鋭主義、徹底した無駄の排除、
時流を先読みし、未来に備える、
是々非々、非合理的な守旧派の意見に屈しない、
人真似でなく、オリジナリティを持った経営感覚を養う、
海外でのビジネス成功の秘訣など、とにかく参考になる話が満載である。
●前回ご紹介した書もそうだったが、
とにかく文章が軽妙洒脱で読みやすいのも長所だ。
無駄を嫌う性格を反映しているのか、
ポイントが手際よくまとめられているので、
200ページの薄さもあり、読み始めたら一気に読破できる。
本書は、特に、斜陽産業でもがいている中小企業経営者におススメの書です。
新しい本をご希望の方は、既述の改訂版をご購入すればよいのですが、
内容的に大して古びてないので、本書でも十分満足できるかと思います。
【マストポイント】
@「会社の理念さえ正しければ、それだけでうまくいくのなら、
こんなに簡単なことはありません。
事業はそれほど甘くなく、予測不可能な事態が次々に起こり、
そのたびに臨機応変な対応を迫られます。
実際の事業のなかで経営者は試され、
それを乗り越えることで事業家としての手腕が磨かれます。
また、危機を乗り越えるにつれて、会社は強くなっていくのです。
現在の私は、常に最悪を想定して経営にあたっており、
このことは現代の経営者にとって必須の姿勢だと思っています」
A「日本企業が海外に出ると、よく国際性がないと言われます。
日本人が一番いけないのは、イエス、ノーをはっきりさせないことです。
そして、出来ないことでもあたかも出来るかのように言ってしまうことが、
トラブルを招いてしまうのです。
海外で仕事をするときには、
『出来るかどうかわからないけど、まあ、いいや、
出来ると言っておこう』という態度ではいけません。
出来ないときは、理由を明確にして、『出来ない』とはっきり言う。
これが大切です。
英語圏で、一度『出来る』と言ったことを実現できなかったら、
それだけでもうおしまいです。
決定的に信用を失い、二度と話を聞いてはもらえません」
B「(著者のことを信用し、ずっと重用してくれた元社長の)小田切さんと
私とは、経営者としての共通点がいくつかありました。
私もそうなのですが、小田切さんもだめな人はあまりあてにしていませんでした。
小田切さんは温厚で円満な人柄でしたから、
口に出してそういうことはおっしゃいませんでしたけれども、
だめな人は相手にしていませんでした。
小田切さんは人をよく見て、その人の実績を公平に評価し、
真価を正しく見抜く経営者でした。
その上で、真に有能な人だけを信頼していました。
もう一つの小田切さんと私に共通していることは、
オリジナリティを持っていたということだと思います。
小田切さんは、問題が起こったときに、
人に教わったことでも本に書いてあることでもなく、
独自の発想で解決していました。
その発想は、昔の経験から出るものもあれば、
まったくのひらめきから来るユニークなものもあったようです。
そんな独自の発想を総合して、事業を成功させるということです」
(以上本文より。一部改変)
【著者略歴】
金川 千尋
信越化学工業株式会社・代表取締役社長。1926年当時日本統治下の朝鮮・大邱生まれ。50年東京大学法学部卒業、極東物産(現三井物産)入社。62年信越化学工業に入社し、70年に海外事業本部長となる。78年塩化ビニール事業の海外子会社、米国シンテック社長に就任、塩ビ事業を世界最大規模に成長させた。90年シンテック社長と兼務で、信越化学工業の代表取締役社長に就任。2007年3月期決算では12期連続で最高益を更新。
ラベル:金川千尋