必読本 第544冊目
走ることについて語るときに僕の語ること
村上 春樹(著)
¥ 1,500 (税込)
文藝春秋
単行本: 248ページ
2007年10月15日 初版
●走ることは彼自身の生き方をどのように変え、
彼の書く小説をどのように変えてきたのだろう?
日々路上に流された汗は、何をもたらしてくれたのか?
村上春樹が書き下ろす、走る小説家としての、
そして小説を書くランナーとしての、必読のメモワール。
●春樹さんの話題の最新刊。
次のノーベル文学賞候補かとも期待される
国民的作家が、
ずっと続けているという「走る」という行為の意味、楽しみを
初めて赤裸々に語る。
●本編には合計9個の「走る」ことをテーマにした
文章を収める(前書きと後書きもとても面白い)。
「走る」ことを開始したそもそものきっかけから、
普段の練習内容、レースで心がけていることなどを
文字通り「駆け足」のごとく流麗な文章で述べ続ける。
それに加えて、普段の創作風景、海外生活、健康法、
無名時代の秘話、瀬古俊彦、有森裕子などトップランナーとの
交遊録などなど、普段ほとんど書かないようなレアな
お話も非常に多く披露しているという意味において、
「村上春樹」という作家の全体像を知るには、格好の1冊です。
●しかし、改めて痛感するのは、
内容の面白さもさることながら、
立て板に水のごとくのその美麗な文体である。
「ものを書く」ということを生業にしたいとお考えの方々ならば、
まず氏の通俗的なエッセイなどを丹念に読み、
その言葉選び、論理展開などを真似していけば
文章は相当達者になるはずである。
本書も、内容の秀逸さもあり、
おそらく一旦読み始めたら最後まで一気に読みきってしまう
人が大半だろう。「文章読本」的にもオススメできる。
●中盤に、若かりし頃からの春樹さんの
練習風景、競技大会での姿が
何枚も写真で収められているのも、
プライベートの姿をあまり晒したがらないはずの
著者としては、大変貴重なことだと思う。
常に体を鍛えているだけに、若い時と最近の姿で、
容貌にも肉体にもほとんど「老い」が見られないのは、
やはり文句なく称賛に値する。
誰もが、自分もそろそろジムにでも通おうか、
村上さんを見習って体を鍛えなくてはという
思いを持つはずである。
【マストポイント】
@他人と競わず、さほどお金もかからず、
黙々と一人でこなす趣味を持つのは、
極めて有益なことである。
内省的な作業ができるからだ。
ウォーキング、絵画、書道、ヨガ、
編物、ガーデニングなど、何歳になってもできるものが好ましい。
A人から強制されてやらされることは、
全くやる気が起きず、何一つ益にならず、すぐにやめたくなる。
自分からやりたいと思って自発的に開始したことは、
率先して学ぼうとするし、ずっと継続できるし、
色々と得るところも多い。
B「学校で僕らが学ぶもっとも重要なことは、
「もっとも重要なことは学校では学べない」という真理である」。
(本文より)
【著者略歴】
村上春樹
1949年1月12日、京都府京都市生まれの兵庫県芦屋市育ち。住職の息子で国語教師でもある父と、大阪の商人の娘である母の間に生まれる。兵庫県立神戸高等学校卒業。早稲田一文に入学。その後演劇映像専修へ進む。大学在学中に陽子夫人と結婚。結婚後、国分寺市に転居し、大学に在学しながらジャズ喫茶を開業する。大学を7年かけて卒業後,閉店後の店で小説を書き、1979年『風の唄を聴け』で群像新人文学賞を受賞しデビュー。1981年には作家専業で生きていく決意を固め、ジャズ喫茶を廃業した。全共闘世代、団塊の世代を代表する作家であるが、政治活動にかかわることを避け、全共闘運動からは遠く距離を置いている様子が、作品の端々からうかがわれる。1987年『ノルウェイの森』が、空前の大ベストセラーとなり、一般的にも認知される。その後、出せば必ず売れる作家の1人に数えられるようになった。作品は韓国、米国、台湾などでも絶大な人気があり、1980年代以降の日本文学、現代文学を代表する最も評価の高い文学者の1人である。