必読本 第1009冊目
酒とバカの日々 ― 赤塚不二夫的生き方のススメ
赤塚 不二夫(著)
白夜書房
¥1,500
単行本(ソフトカバー): 321ページ
2011年10月1日 新版
●人とうまくつき合えれば、人生何倍も楽しくなる。
赤塚不二夫の「酒とバカの哲学」から、生きる楽しみを学ぶ!
●「ギャグ漫画」の神様として、死後もなおいまだに根強い人気を誇る、
漫画家赤塚不二夫さんが過去に残した「酒」をテーマにした人生論。
70年代から90年代に各種の書籍で残した言葉の数々を
一冊にまとめ、この秋に刊行された。
●赤塚さんと言えば、希代の酒好きとして有名でしょう
(若い頃は、毎晩ウイスキーを2本も空けていたという!!)。
晩年は、極度のアルコール依存症状態にまでなってしまうも、
身を持ち崩すというその暗いイメージを一切漂わせることなく、
明るい酒を飲む、という哲学を全うされた方でした。
本書は、酒場でどうしたら気軽に他人と仲良くなれるか、
酒という摩訶不思議な飲み物を通して、どうしたら楽しく生きることができるかを
メインテーマに、赤塚さん流のオリジナルな人生論、交友術を述べた本です。
●内容的には、酒とどうやって付き合っていくべきか、
酒場の席ではどのようなマナー、気遣いをしなくてはならないのか、
どのようなサービス精神を発揮すれば、宴席で人を魅了することができるのかを、
冗談連発の明るい口語体でレクチャーしてくれております。
例示されている赤塚さんの酒にまつわるおバカなエピソードがとにかく痛快で、
爆笑を禁じえません(本文には、女性器を表す四文字熟語のオンパレードで、
良識ある女性は読むのが憚れるかもしれません)。
今だったら、絶対に警察沙汰になりそうなことを毎晩のようにやっていたと
いうのですから、赤塚さんとその仲間たちは、
並外れたエネルギー、パワーがあったということなのでしょう。
それが大目に見られたという70〜80年代も良き時代だったのかもしれません。
しかし、あれほどの大人気漫画家で、何十億円も生涯に稼いだというのに、
財産らしい財産をほとんど残さず(外車など、高級品も気前よく人にあげてしまう)、
ほぼ酒代で消えたというのですから、開いた口がふさがりません。
●他にも、カラオケ、イッキ飲み、グループ飲みを嫌悪する理由や、
家でゲームやAVばっかり見てるようでは女にモテないし、友達もできない
(カウンターバーで初対面の若者たちに声をかけたら、
カウンターに指で線を引かれ、自分たちの領域に入ってこないでくれと言われたという
ジェネレーションギャップを象徴する悲しき話が紹介されている)とか、
ゲイバーなどの珍奇な店で飲むことが勉強になる、
酒場での女性との駆け引きはいかにあるべきかなど、
バカ話の合間に、キラリと光る名言、アドバイスを見出すこともできます。
子供のころの極貧話、トキワ荘時代のエピソード、
「おそ松くん」など、大ヒット漫画誕生の裏話など、赤塚さん個人を知るお話も満載です。
エピローグの、氏の娘さんのお話も、常識外れの父親を
クールな目線で分析しており、とても参考になります。
●他に、この本で特筆すべきは、何といっても、
タモリさんにまつわるエピソードでしょう。
無名時代のタモさんの才能をいち早く見出し、
手弁当で売り出した大恩人であることはあまりにも有名ですが、
そのへんの事情が、極めて具体的に語られております。
とてもテレビでは放送できないような酒場での乱痴気騒ぎの模様が
回顧されておりますので、両氏のファンはとても面白く読めるはずです。
他にも、美空ひばり、立川談志、由利徹さんなどの
知られざるエピソードも紹介されております。
●赤塚さんのイメージといえば、
国営放送のベテラン女子アナウンサーのインタビューに、
酒を食らい、ほろ酔いかげんで答えていた姿が個人的には思い出される。
良識あるNHKの放送で、あんなことが許されてしまうのは、
その独特の癒しのムードを醸し出す、赤塚さんぐらいしかおられなかっただろう。
私も酒は嫌いな方ではないが、
どうも人見知りで孤独癖があり、部屋にこもって一人酒をしてしまいがちである。
本書を参考に、もっとドンドン酒場に繰り出し、サービス精神を大いに発揮して、
色んな人とコミュニケーションを取らなくては駄目だなぁと大いに反省した次第であった。
引きこもりがちで、なかなか友達ができない人や、
異性と懇ろになりたいと思っている方などに特に推薦したい本です。
【マストポイント】
@「とにかくどんな人とでも仲良くなる主義だから。
そんな感じだから、相手の気持ちを読み取ることだけはうまくなったんだろうね。
いまこの人は何を考えて、何を求めているのか、
どんな話をすれば喜ばれるのか、そんなことばかり考えているんだよ。
まえにも言ったけど、とくに相手と仲良くなるには緊張感や警戒心を与えてはダメだろう。
生まれつきなんだけど、なんとなく相手に安心感を与えるキャラクターなんだ。
乱暴なとこなどすこしもないしね。
でもだな、この相手に安心感を与えるキャラクターというのが女にモテるんだよ。
本当だよ。
半端にイキガッたりカッコつけたりするよりずっといいんだ」
A「他人とうまくつき合うためには、自分を解放してやらないとなんないだろう。
構えているとうまくいかないから、そこに酒がある。
いくら酒があっても黙って飲んでいてもしかたないから、
話題を豊富にもっていなきゃなんない。
だから、勉強する。
酒がはいって気分良くなったら、どう酒の場を盛り上げるのか、
どういう話題をもち出せばいいのか、そういうことを酒の場を通じて覚えていってくれよ。
人とうまくつき合えれば、人生何倍も楽しくなるよ。ほんとうだよ。
オレを見ればわかるだろ」
B「『こうあるべき』とか『こうじゃなければ幸せではない』とか、
そうやって制限するとハッピーじゃないんです。
枠にしばられて、たとえば自分が何歳までに結婚してなきゃとか、
そういう生き方をしたら、結局辛くなるのは自分。
将来的な目標を持つことはいいことかもしれないけど、
その日その日をめいっぱい生きる方が楽しいでしょう。
将来とか未来を見すぎると、思い通りにならなかった場合、
それが失敗になっちゃうじゃないですか。
でも、赤塚はそんなに遠くを見てなかったから、“今”を本当に必死に生きて、
楽しんできたからこそ結果的に先を作っていくことにもなったんだと思います」
(以上本文より。一部改変。最後だけ、娘の赤塚りえ子さんの言葉)
【著者略歴】
赤塚 不二夫
1935年、満州(現中国東北部)古北口生まれ。中学在学中、手塚治虫氏の『ロストワールド』に影響を受け、漫画家を志す。1956年、少女マンガ『嵐をこえて』でデビュー、トキワ荘に入居。1958年、『ナマちゃん』を「漫画王」(秋田書店)に少年誌初連載。テレビアニメ化作品も多く、他に『レッツラゴン』『ギャグゲリラ』等の代表作がある。1965年、『おそ松くん』により第十回小学館漫画賞を受賞。1972年、『天才バカボン』により第一八回文藝春秋漫画賞受賞。